すべての「いのち」のために

日本SRGM連盟代表・日本アニマルライツ連盟理事・日本優生思想研究所研究員の日野智貴のブログです。いのちに線引きする「優生思想」に断固反対!(記事内容は所属団体の公式見解とは無関係の個人的見解です)

『とある科学の超電磁砲』で感じた「流産児症候群」

 タイトルだけを見ると私の好きなアニメの話をするようですが、心理学の話が絡みます。私はヒットしたアニメや映画の理由を心理学的に考察する趣味があります。

 私は大学でアナル学派の教授から「心性史」というジャンルがあることを学びました。体系化された思想や宗教ではなく、もっと日常的な人々の思考様式や感覚の歴史を研究する分野です。

 先日、アナル学派の古典的作品の一つである『魔女とシャリヴァリ』という論文集を読みましたが、限られた資料の中から教会での神父による説教が民衆の間で「悪魔への恐れ」と変わっていく過程を論証するなど、中々興味深いもので感想はいずれこのブログに書かせていただきます。

 さて、心性史の研究をすると、例えば魔女狩りについて「集団ヒステリー」みたいな言葉を使う方も世の中にはおられます。「集団心理」とか「群集心理」とか言った言葉は今の政治学社会学でもしばしば用いられます。

 私は心理学の専門家ではありませんが、心理学ではしばしば「集合的無意識」や「家族的無意識」と言った、一見オカルト的な概念を使っています。

 私が最初「家族的無意識」と聞いたときは「は?無意識が遺伝するとでも?そんな訳ないだろ。」と思っていましたが、実は最近、遺伝学の分野でも「記憶の遺伝」が研究されています。

 その一例が「恐怖の記憶が遺伝する」というマウスでの実験です。

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 多くの人がこのニュースを聞いたときに「フェイクニュース」を疑ったと思います。『ネイチャー』みたいな権威ある学術雑誌がこんなのを掲載してよいのか、と私も思ったものです。

 しかしながら、あれから5年近くたち、この研究はかなり進み「後天的形質が遺伝する可能性」があることは学術的にも認められるようになりました。

 なので「無意識の遺伝」があっても可笑しくはありません。ただ、マウスでの実験は可能でも、人間でそれを証明しようとすると非人道的な人体実験になってしまいますので、「家族的無意識」の解明にはかなり時間がかかることでしょう。

 ちなみに、家族的無意識を提唱したレオポルド・ソンディ(文学者のペーター・ソンディの父)は心理テストの権威で、世界で最も権威があるとされる『ブリタニカ国際百科事典』によるとこう言う人です。

[生]1893.3.11. ニトラ
[没]1986.1.24. チューリヒ
オーストリア=ハンガリー帝国生れの精神分析医。主としてスイスで活躍した。ユダヤ人の靴屋の息子として生れ,ブダペスト大学に学ぶ。遺伝子研究に興味をもち,結婚相手の選択には劣性遺伝子が影響するという無意識の遺伝子学説を唱えた。 1939年,8枚1組の顔写真を選択させ,その結果によってパーソナリティを診断する「ソンディテスト」を発表。第2次世界大戦中は迫害を受け自宅で研究を続けるが,44年ベルゲン・ベルゼン収容所に強制収容された。戦後は「家族的無意識 (必然運命) 」の理論に基づく運命心理学を提唱し,58年国際運命心理学会を設立した。主著『実験衝動診断法,ソンディテスト』 Lehrbuch der Expellimentellen Triebdiagnostik (1947) ,『運命への挑戦-運命心理学論集』 Schicksalsanalytische Therapie (63)

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 さて、こうした話を踏まえると、人気のアニメには人々が無意識に求めている者が反映されている、と考えることができるでしょう。特に、「ナゼかヒットしているアニメ」にはいわゆる集合的無意識が関与していると言えます。

 例えば、私の好きな『とある科学の超電磁砲』は『とある魔術の禁書目録』の「外伝」なのに、本編以上の大人気です。

 実は私は流行に乗るのが嫌いで、『とある魔術』は「まぁ、昔流行っていた奴を一度は見てみようか」という感じで見ていました。すると、私自身が外伝の「とある科学」の方に嵌ってしまいました。(笑)

 『とある科学』の人気の根強さは、第一期が放送されてから十年以上たった昨年にも第三期がアニメ化されたこと、それどころか、第一期の主題歌が今でもカラオケの人気曲ランキングに出ていることにも表れています。

 この「本編以上の人気」と言うのは、通常はあまり無いことなのですが、現に起きているということは理由があるのです。

 真っ先に連想されるのが、『とある魔術』の主人公が上条当麻(男子高校生)なのに対して、『とある科学』の主人公が御坂美琴という、可愛い女子中学生であることですが、『とある魔術』が気持ち悪いほど巨乳キャラを乱造しているのですから、萌えキャラ好きなオタクの票が入った訳では無いことは確実です(むしろ御坂美琴はオタク好みの萌えキャラでは「無い」ように設定されている)

 それでは設定ですが、『とある科学』の舞台は、近未来の「学園都市」という科学技術が高度に発達し、なんと、超能力者を「科学的に」育成できるようになった地域です(ここまでは『とある魔術』と共通)

 学園都市には多くの学校が存在し、そこで教えられるのは「科学万能主義」。お守りを持っているだけで「非科学的」と言われるような有様です。

 主人公の御坂美琴自身、脳内に電極をぶち込んだり、薬物投与を受けたりして、学園都市に7人しかいないレベル5の超能力者になった人間。そんな環境で育ってますから「魂」と聞いただけで反射的に「オカルト」と言うぐらいの、生粋の唯物論者です。

 しかしながら、原作漫画ではその御坂美琴ら登場人物が唯物論的な学園都市の方針にどこかで疑問を持っている様子も描かれています。さらに『とある科学』の外伝である『アストラル・バディ』(『とある魔術』の外伝の外伝)では、まさに科学万能主義の登場人物がそれに疑問を抱くのがテーマで、一番最後の場面はなんと登場人物がお寺でお世話になった人のお墓参りに行き、心の安らぎを得るという結末です。

 アニメ版の『とある科学』ではそうした描写はかなり削減されているものの、それでも一端がうかがえます。

 例えば、このシーンです。

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 これは、超能力者の不良少年を指導するために武装した教師(アンチスキル)が、胎児の姿をした「幻想猛獣」を攻撃する場面。

 この胎児は、学園都市の劣等生の負の感情が具現化したものと言う設定ですが、どうして胎児の形をしているのか、と言う説明は作中で一切ありません。恐らく作者も特に深いことは考えずにチョイスしたのでしょう。

 しかしながら、作者が「なんとなく」選んだものがヒットしたのですから、これには「集合的無意識」の働きを感じざるを得ません。

 日本優生思想研究所の所長で「いのちを守る親の会」理事長の大熊良樹先生によると、現在空前の大ヒットをしている『鬼滅の刃』でも、登場人物が胎児の形になって最期を迎える場面があるそうです。これにも「集合的無意識」の作用があるのでしょう。

 「科学万能主義」の教師たちが「赤ちゃん」を殺そうとする構図――私には、それが「唯物論教育」「生命軽視の教育」が人工妊娠中絶を増やして「堕胎天国」と呼ばれるようになった、戦後日本を象徴しているように感じます。

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 また、劣等生の念が胎児の形をしたことについて、私が真っ先に連想したのが宝蔵神社で修行しているときに聞いた「流産児症候群」でした。

 宝蔵神社は日本で初めて無縁の水子を供養する「全国流産児無縁霊供養塔」が設置された神社です。檀家や信者の水子さんを供養するお寺や神社、宗教は珍しくありませんが、どうして「無縁」の水子さんまでもを供養するのか、というと戦後の一時期、人工流産児のいた家庭で子供の非行や浪費、引きこもりと言った事案が目立つようになったからです。

 宝蔵神社の楠本加美野前宮司はそれを「流産児症候群」として次のような症状を纏められました。

①大切な時期にやる気がなくなる

②暗いところが好きになる

③赤ちゃんや用事が好きなお菓子や牛乳をやたら欲しがる

④手足が水のように冷たい

⑤親に反抗する

⑥孤独で寂しそうにしている

⑦無駄な金を使うようになる

 これらは、言うまでも無く単独では流産児がいない場合も起こります。特に⑤は単なる「反抗期」の場合もあります。

 しかし、これらがすべて該当する人たちから家庭の事情を確認すると、人工流産児がいる家庭があまりにも多いのです。

 言うまでも無いことですが、こうした症状の出ている子供たちの多くは、まさか自分たちの親が(どんな事情があったにせよ)中絶をしているなど、思いにもよりません。中絶の事実すら知らないのに、例えば③みたいな幼児退行の症状を見せる訳です。

 これを心理学的に説明するとどうなるのか。「遺伝する心理」と言うものが関係しているのかも、知れません。

 中絶をする人は、多くの場合は(やむを得なかった場合を含めて)どこかで罪悪感を抱いています。少なくとも、我が子に「私は中絶をしたことがある」と自慢するような女性は、普通はいません(もしもいたら、精神状態が不幸な方ですね)

  そして、少なくない女性が「中絶後遺症」(PASS)と呼ばれる精神状態になります。宝蔵神社宮司の楠本加美野先生によると、これは潜在意識で中絶を後悔している女性による「自己処罰」であるそうです。

 

warai88waraikun.hatenadiary.jp

  「恐怖の記憶が遺伝する」というネズミでの研究結果も合わせると、潜在意識レベルでの母親の感情が子供に遺伝した、と言う可能性も、0とは言えないのです。

  『とある科学』に登場する不良少年たちも、その負の感情が「胎児」の形をして現れる点、どうも私には「流産児症候群」が背景にあるように思えてならないのです。

 

abema.tv

  無論、作者はそのようなことなど意識していないでしょうが、前述したとおり「特に意識せず」(無意識に)選んだのが「科学万能主義の教師たちが胎児を殺そうとし、返り討ちに遭う」という描写であるのは、とても興味深い話です。

  『とある科学』の外伝である『アストラル・バディ』の最終場面が「お墓参り」であることも考えると、科学万能主義への無意識レベルでの不信感が『とある科学』ブームの背景にあると考えてみるのも、決して無駄なことではないでしょう。