改憲勢力「3分の2」どころか「4分の3」も占めているのに憲法改正できないのは安倍政権が原因
一説によると「安倍首相の悲願は憲法改正」ということだそうです。本当に安倍さんがそんな「悲願」を持っているとは私は思いませんが、表向きにせよ安倍首相が「改憲派パフォーマンス」をしてきたことは皆さんご存知の通りです。
その安倍さんが「立憲民主党のせいで憲法改正の発議ができない」という意味の発言をしたそうです。
安倍晋三首相は3日夜、自民党の森山裕国対委員長ら国対幹部と首相公邸で会食した。出席者によると、首相は憲法改正をめぐる国会論議について、「立憲民主党と共産党がいる限り全会一致の議論は無理だ」と語った。
また、首相は11~18日の日程で欧州、中東を歴訪することを踏まえ、22日の会期末が迫る中、外遊中に野党が内閣不信任決議案を提出した場合の対応を質問。これに対し、国対幹部は、首相不在時の臨時代理が国会に出席し、不信任案を採決することが可能と説明した。
そりゃ北朝鮮じゃないんだから全会一致の議論なんか無理だろとツッコミたくなりますが(ちなみに習近平個人独裁の進む中国の全人代ですら数人程度の造反は珍しくありません)、どうやら安倍首相は「平壌政府」の金正恩「国務委員長」のように全会一致で憲法を変えたいようなので、改憲発議を断念するそうです。
自民、公明両党の幹部は4日、東京都内で会談し、憲法改正手続きを定めた国民投票法改正案の今国会での成立を断念し、継続審議とする方針を決めた。法案は5日の衆院憲法審査会で趣旨説明を行うが、実質審議に入らない。憲法審を全会一致で運営するという“原則”に沿い法案審議を拒む立憲民主党などに配慮したためだが、野党が反対し続ける限り、秋の臨時国会以降も憲法改正議論は停滞を免れない。(原川貴郎)
「参院が詰まっているから」
自民党幹部は4日、継続審議を決めた理由に、参院での日程確保が難しいことを挙げた。
改正案を共同提出した自公と日本維新の会、希望の党の4党は衆参両院で多数を占めている。他の野党が反対しても改正案は成立する。それでも、与党が立憲民主も含めた共同提出にこだわったこともあり、改正案の国会提出は6月27日にずれ込んだ。参院の審議時間を踏まえると、22日までの今国会中に成立させることは困難になったという。
改正案は、洋上投票の対象拡大などを盛り込んだ平成28年成立の改正公職選挙法をそのまま国民投票法に反映させる内容。今年5月31日の衆院憲法審幹事懇談会では、立民、国民民主を含めた全幹事が6月6日に共同提出することで、一度は合意したはずだった。
しかし、立民の辻元清美国対委員長は、政府・与党が学校法人「森友学園」問題などの説明を十分果たさないことなどを理由に、改正案の審議どころか衆院憲法審の開催も拒むようになった。
立民と国民が衆院憲法審の幹事懇すらまともに出席しない状態を続けた結果、今国会で憲法審が開かれたのは、衆院で理事選任手続きを行う1回、参院は2回のみ。憲法全般の議論を行う「自由討議」は参院で1回実施されただけだ。
自民党は、憲法9条への自衛隊明記など3月にまとめた「改憲4項目」の条文素案について、憲法審で議論の上、早期の国会発議を目指している。野党が政局的な理由を振りかざして憲法審の開催を拒み、与党側がこうした姿勢を許していれば、改憲議論は一向に前に進まない。
与党は秋の臨時国会で改正案の成立を目指す考えだが、憲法審の“原則”にこだわり続けると「改憲4項目」の議論も来年以降に先送りされかねない。
それにしても「戦争参加法制」の際はあれだけ「原則」を無視して強引に(「対案を出せ!」といった結果、本当に対案を出してきた維新や次世代の法案は事実上無視するなど)法律を制定したのに、憲法改正になると不思議なほど弱腰です。
憲法改正の発議には国会の衆議院と参議院でそれぞれ3分の2以上の議員の賛成が必要です。
憲法改正がいくら安倍首相の悲願であっても、憲法改正賛成の議員が衆議院と参議院の双方で3分の2を占めていない限り、改憲は不可能です。
では、実際には改憲派の議員はどれだけいるのでしょうか?
実は憲法改正に断固反対の政党は共産党と社民党だけです。それ以外の政党は憲法改正に賛成であったり、特に意見がなかったりで、要するに「条件次第では賛成の政党」です。
それなら「立憲民主党はどうなのか?」という意見もあるかもしれません。確かに立憲民主党は「安倍政権下での憲法改正には反対」と言っています。
しかし、これは「安倍政権でなければ憲法改正に条件付き賛成」ということです。実際、立憲民主党の枝野幸男代表は過去に独自の改憲草案も発表しています。
国民投票法の改正にせよ、与党の自民党と公明党とで衆参両院の過半数を占めているのですから、その気になればいつでも出来ます。
さらに全ての野党が立憲民主党や共産党、社民党に足並みをそろえているわけではありません。日本維新の会と希望の党は憲法改正について安倍政権に協力する姿勢を見せています。
また国民民主党と自由党も改憲派であることを明確にしており、自由党に至っては具体的な憲法改正の提言も行っています。
それでは、自民党と公明党(もはや政党ではないですが、日本のこころも)の与党と与党+維新・希望の議席数、さらには条件付きで憲法改正に協力してくれそうな国民民主党と自由党も合わせた改憲派六党に、立憲民主党等も含めた広義の改憲派の議席数を確認してみましょう。
背景黄色の太字が3分の2以上、背景黄色で赤の太字が4分の3以上の議席数を確保している状態です。
画像を少し拡大してみます。
これを見ればわかりますが、与党の議席数に維新の会と希望の党が加われば軽く3分の2以上の議席数を獲得している状態なのです。
さらに、国民民主党や自由党の同意も得ると3分の2以上どころか4分の3以上の議席数になります。
それではどうして安倍政権は憲法改正の発議をしないのでしょうか?
最大野党である立憲民主党が反対しているからでしょうか?しかし、最大野党が反対している法案でも安倍政権は成立させていっています。
そもそも立憲民主党とて憲法改正絶対反対ではないのですが、ただ表向きは立憲民主党と安倍政権は対立していることになっているので、ここで手を組むのは難しいかもしれません。
しかし、改憲派の野党である国民民主党・日本維新の会・自由党・希望の党の議席数を合わせると軽く立憲民主党を越えますから、これらの野党を説得すれば憲法改正は可能なはずです。
もっとも国民民主党と自由党は「野党共闘」と称して立憲民主党を始めとする他の野党との連携を重視していますが、日本維新の会と希望の党は野党共闘には参加していません。
そしていざという時は与党と日本維新の会と希望の党だけの賛同でも憲法改正の発議は可能です。
つまり、やろうと思えば憲法改正の発議はいつでも可能なのです。しかも、この状況は最近いきなり生じたのではありません。
平成25年(西暦2013年、皇暦2673年)の時点から安倍政権下での憲法改正に好意的な自民党・公明党・日本維新の会・みんなの党の四党で衆参両院で3分の2以上を獲得しました。
あれから約5年もたっています。その間、憲法改正をやろうと思えばいつでも出来たはずです。
それではどうして安倍政権は可能なはずの憲法改正の発議をしないのでしょうか?可能性は大きく分けて二つあります。
だいたい「できるのにやらない」状態が長く続くと本気度が疑われます。ちなみに安倍政権は「公約にはできることしか書かない」と言いながらほとんどできていない前科があります 。
こちらの可能性もあります。と言うのも、かつて平成24年(西暦2012年、皇暦2672年)に自民党が発表した改憲草案はとても酷い代物で改憲派からも反対意見が巻き起こったからです。
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自民党改憲草案の問題点については私も過去にこのブログで触れたことがあるので良かったらご覧ください。(一つ目は高校一年生の頃の記事ですが・・・・。)
平成25年(西暦2013年、皇暦2673年)7月17日 「憲法21条改正」と『人権擁護法案』で"言論統制社会"が実現する!
平成28年(西暦2016年、皇暦2676年)8月27日 「緊急事態条項で信教の自由が危ない!」 日本会議の代表委員が自民党改憲草案への「反対」を表明
もっとも安倍首相もバカではない(はず)なので、かつての自民党憲法草案そのままの案を出すことはないでしょうし、「2」の可能性は低いでしょう。
するとどうも「1」の可能性が浮上してきます。
より正確に言うと、
「国民民主党や自由党も賛成するようなマトモな内容の憲法改正には、安倍政権は興味がない」
ということです。(ついでに言うと、ここでいう「マトモな内容」とは「戦後体制派にとって」ということです。自民党も国民民主党も「改革、改革」と言っていますが、本気で戦後体制から脱却する気はありません。)
こういうと、
と言われるかもしれませんが、そもそも今時自衛隊違憲論など立憲民主党ですら主張しないマイナーな意見ですから、仮に安倍首相が個人的に「自衛隊の憲法明記」に燃えていたとしても
与党「いやいや、どうせ憲法改正するならもっと他に変えたい部分が・・・・。」
野党「そもそも自衛隊は明記しなくても合憲だし・・・・。」
となって、全然最優先順位になりません。というか、安倍首相だって自衛隊合憲論者なのですから、私は安倍首相も自衛隊の憲法明記自体にはそれほど熱心ではないと思います。
何しろ、仮に自衛隊の憲法明記に失敗しても自衛隊が無くなる訳ではありません。失敗しても大丈夫なことに本気になる政治家は普通存在しません。
(ただし、安倍政権が「自衛隊明記のための改憲」を言いだしたのには「戦争参加法制」を運用しやすくする目的がある、という意見もあります。この場合、安倍首相が本気でしたいのは「自衛隊の憲法明記」ではなく「アメリカの戦争への協力」ということになります。)
いずれにせよ、安倍首相が本気で憲法改正をしたければ可能な状況は出来ています。(どういう憲法改正をするのか、によりますが。)
それでも改憲できないのは安倍政権に原因があると言わざるを得ないでしょう。状況を見る限り、安倍政権が本気で憲法改正に取り組んでいるわけではない、と考えた方が良いです。