すべての「いのち」のために

日本SRGM連盟代表・日本アニマルライツ連盟理事・日本優生思想研究所研究員の日野智貴のブログです。いのちに線引きする「優生思想」に断固反対!(記事内容は所属団体の公式見解とは無関係の個人的見解です)

人間社会に「落とし込む」ということ――「インド仏教復興運動」という菩薩行


人気ブログランキングへ

 先日、私は光明思想団体の同志と二人でインド仏教復興運動に携わっている仲間に逢いに行きました。

 インド仏教復興運動について簡単に説明します。

 インドの伝統宗教ヒンドゥー教です。多くの日本人が仏教徒でも神社に参拝するように、インド人も実際には様々な信仰の方がいるのですが、多くのインド人は自分がヒンドゥー教徒だと認識しています。

 とは言え、一般的なヒンドゥー教では「カースト制度」と呼ばれる、超厳しい身分制度を肯定しています。カースト制度というのは、先ず人間を

バラモン

「クシャトリア」

「ヴァイシャ」

シュードラ

の、4つの身分に別けます。

 「バラモン」は祭祀貴族(世襲の宗教家)、「クシャトリア」は世俗貴族(王族から大地主まで含まれます)、「ヴァイシャ」は一般市民、「シュードラ」は下層市民です。

 ですが、単に4つの身分に別けているだけではなく、その身分の中で職業等もかなり細かく決まってしまっています。

 さらに、この4つの身分のさらに下に「ダリット」という身分があります。これは、もはや「人間扱いされない」という待遇を受けている身分です。

 インドでは法律上はこのカースト制度は廃止されていますが、何しろこの背景には宗教があります。というのも、ヒンドゥー教では

「過去世の行いによって身分や職業が決まっているのだ!」

という教義があります。どうして身分だけでなく職業も出生によって細かく決まっているのか、というと「過去世からの業(カルマ)によって決まっているから」というのが答えになります。

 無論、全てのヒンドゥー教徒がそういう考えではありません。インドでは仏教もヒンドゥー教の一派と見做されていますが、仏教ではカースト制度による差別を否定しています。

 が、インドではこの仏教があまり広まりませんでした。いや、一時期は広まっていたのですが、「やっぱりカースト制度は正しいよね」と多くの人が考えたので、仏教の信仰はあまり浸透しなかったのです。

 もっとも、今でもお釈迦様はインドでは偉大な神様の一人とされています。イスラム教徒や一般的な日本人の間でもイエス・キリストは「偉大な人」なのと一緒です。

 ただし、インドでは「カースト制度を肯定した他の神様の方がエライ!」という考えが主流になってしまっています。

 そんなインドの現状を変えようとしているのが、インド仏教復興運動なのです。


人気ブログランキングへ

 ちなみに、インド仏教復興運動ではどういうロジックでカースト制度を否定しているのか、簡単に説明しますね。

 スピリチュアル系でも「過去世」や「前世」の話がしばしば話題に上ります。

 しかし、「過去世の行いが悪いから人を差別しても良い」という考えは、明らかにオカシイです。とは言え、そのことをどうやって人に説明するのでしょうか?

 インド仏教復興運動においては「転生なき再生」という言葉があります。これは『ミランダ王の問い』という原始仏教の仏典がもとで、私みたいな浅学の徒には完全には理解できていませんが、私が理解できた範囲で説明します。

 一人の女性がいます。その女性は、今は老婆ですが、かつては少女でした。さて、今そこにいる「老婆」とかつていた「少女」とは「同一の存在」ですか?

 外見も内面も言動も、全く違っているのではないですか?

 人間の「過去世」と「今世」の違いも同じようなものです。少女時代の美貌や言動で老婆の序列を決めるのは愚かなことですが、過去世の行いで人を差別するのも同じぐらい愚かなことです。

20190313_1

 また、こんな例えもあります。

 ローソクに火が灯っています。そのローソクが消える前に、火を別のローソクに移しました。火は消えていません。が、別々のローソクに灯った火は「同じ存在」なのでしょうか?

 ここで言う「ローソク」を「肉体」や「霊体」と考えてください。「火」に当たるのが「人生」です。

 確かに、貴方の「人生」という「灯火」は「過去世」から「継承された」ものかも、しれません。が、「過去世」と「同一のもの」ではありません。

 ローソクの火を消えかかったローソクから他のローソクに移すと、その「火」は「再生」したといえるかもしれませんが、それを「転生」と言えるのかは議論があります。それで、インド仏教復興運動では「転生なき再生」という表現を行います。

 こうした考えを弘めることによって差別をなくしていこう、というのがインド仏教復興運動です。


人気ブログランキングへ

 さて、このインド仏教復興運動に携わっている一人の日系インド人がいます。それが、真言宗僧侶の佐々井秀嶺上人です。

 佐々井上人は元々日本の僧侶でしたが、なんとインドに帰化してインドに骨を埋めるつもりでインド仏教復興運動に携わっているのです。佐々井上人の活動は単なる仏教の活動ではなく、龍樹菩薩の遺跡の調査からカースト制度の撤廃、さらに中共の侵略から逃れてインドに亡命してきたチベット人の支援まで、本当に多岐にわたります。

 ちなみに、龍樹菩薩と言うのは大乗仏教の祖とされる方です。日本ではあまり有名ではありませんが、ある意味、お釈迦様よりも今の仏教に大きな影響を与えています。

20190313_2

 法相宗を除く全ての宗派はこの龍樹菩薩の系統の仏教です。これに例外はありません。

 若い頃の龍樹菩薩の「武勇伝」は、我が国の三流官能小説作家の貧弱な想像力をはるかに上回るものですが、何よりも彼は「遥か昔にお釈迦様の説いた地上にはないお経を竜宮城から持って来る」と言う、凡人には無い発想と能力を駆使して大乗仏教を体系化します。

 さて、江戸時代日本である国学者が「龍宮城からお経を持ってきた?そんなバカな、お釈迦様が説いてもいない経典を捏造しただけだろ!仏教と言うのはな、その程度の宗教なんだよ。」と言って仏教批判をしたそうですが、そういう解釈は今でも「大乗非仏論」として広まっています。

 しかし、この大乗仏教によって多くの人が救われた事実を無視することは、何人にもできないでしょう。

 大乗仏教とは簡単に言うと「自分が悟ろうと努力することよりも、一切の衆生を救済するために努力する方が大事」という教えです。この教えを実践している人を「菩薩」といいます。

 今、佐々井上人がインドでしている活動もまさに「菩薩行」です。

 で、その弟子になったのが冒頭で触れた水落忍上人です。水落上人は元から関西の若手美貫(ヴィーガン)界隈の指導者的存在でしたが、仏縁あってインドに行かれて佐々井上人の弟子として活躍されています。

 今は日本に帰国中で様々な話を伺えましたし、これからも伺うつもりです。

 この水落上人(佐々井上人もですが)、とても人間とは思えない方です。人間ではなく神ではないか、という疑問をストレートにぶつけました。

「いや、僕は人間だよ。」

「え?水落君は人間の枠にはまりますか?」

「枠に嵌るんじゃないよ。人間の肉体を持っている以上、人間社会に落とし込まないとね。」

 中々深みのある言葉です。先ほどの「ローソクの火」のたとえに関連して、こうも言いました。

ローソク(肉体)が無いと火は燃えないからね。」

 彼はその内、インドどころか竜宮城に行ってしまいそうです。