すべての「いのち」のために

日本SRGM連盟代表・日本アニマルライツ連盟理事・日本優生思想研究所研究員の日野智貴のブログです。いのちに線引きする「優生思想」に断固反対!(記事内容は所属団体の公式見解とは無関係の個人的見解です)

「いのち」には“生産性”では測れない尊さ(絶対の価値)がある!

 アセクシャルの界隈では、今でも杉田水脈先生の「生産性」発言が話題となっています。
 これは『新潮45』2018年8月号における杉田水脈先生の論文に「LGBTには生産性がない」という旨の記述があったもので、アセクシャルLGBTでは無いですが、その「異性愛とは違い、子供を作らない」という批判は、アセクシャルにも当てはまるものでした。
 私は、別に何年も前の杉田水脈先生の論文を今ここで非難しよう、と言う気はありません。杉田水脈先生とは(杉田先生が自民党に入る前ですが)直接お会いしたこともあります。私は今の杉田先生は、残念ながら「自民病」に罹患してしまったのだ、と思います。
 というのも、この杉田論文、前半部分はAce当事者の私が読んでも、対して違和感はありません。ただ、後半部分になると一気に粗雑になってしまっているのを感じます。
 杉田論文のこの一節を読むと、杉田先生が本来はLGBTやAスペクトラムを含むSRGMにも優しく寄り添う心を持っている、そう言う人間であることが判ります。

 LGBTの当事者たちの方から聞いた話によれば、生きづらさという観点でいえば、社会的な差別云々よりも、自分たちの親が理解してくれないことのほうがつらいと言います。親は自分たちの子供が、自分たちと同じように結婚して、やがて子供をもうけてくれると信じています。だから、子供が同性愛者だと分かると、すごいショックを受ける。
 これは制度を変えることで、どうにかなるものではありません。LGBTの両親が、彼ら彼女らの性的指向を受け入れてくれるかどうかこそが、生きづらさに関わっています。そこさえクリアできれば、LGBTの方々にとって、日本はかなり生きやすい社会ではないでしょうか。


 両親には限らないのですが、世の中の人々が「性的指向を受け入れてくれるかどうか」ということは、杉田先生も言われている通り、重大な問題です。無論、これは「恋愛指向」ジェンダー自認」でも、同様です。
 菅直人元首相はかつて、名古屋で演説した際に、愛知県民に向かって
「愛知も東京も経済がいい。生産性が高いといわれるが、ある生産性は、一、二を争うぐらい低い。子どもを産む生産性が最も低い
等と発言した、と言います。まるで子供を「生産」する道具であるかのように言うのは、生命軽視の発想です。
 生命には生産性を超えた、絶対の価値があります。
 無論、子供を育てることは、素晴らしいことです。私も「いのちを守る親の会」という団体に入って、望まない妊娠から妊婦さんと赤ちゃんを救う活動を支援しています。
 最近、いのちを守る親の会とも協力関係にある「赤ちゃんポスト」で有名な慈恵病院が「内密出産」を導入したところ、それを非難してくる人が出てきました。残念なことです。
 何らかの事情で子供を育てられない人も、世の中にはいます。そういう人が、赤ちゃんの命を断つことになる「中絶」ではなく、誰かに赤ちゃんの命を託す「内密出産」と言う選択をする、一体、それのどこがいけないのでしょうか?
 現在、公式の統計だけでも年間15万件以上の中絶が行われており、実際には「闇中絶」が少なく見積もってもその3倍から5倍存在する、と言われています。
 そうした赤ちゃんの命を、救えるものならば救いたい、それが慈恵病院の想いなのでしょう。内密出産を非難するのは、中絶を推奨するのと同じであり、「いのちに線引きをする」生命軽視の発想です。
 事実、世の中には不妊症等によって子供を育てたくても育てられないカップルが、10万組以上存在します。

warai88waraikun.hatenadiary.jp


 そして、「アセクシャルだけど、赤ちゃんは欲しい」という人達も、少なからず存在するのです。
 アセクシャルは人口の0.8%もいると言われていますから、日本全体でアセクシャルは少なくとも800万人以上いる訳です。その中で子供が欲しい人はどんなに少なく見積もっても1%以上はいますから、最低で8万人以上。
 望まない妊娠に悩む妊婦さんを鋤くために始まった、特別養子縁組制度。この制度はまだまだ改定が必要ですが、救える命は沢山あるのです。
 少し、話が逸れました。子供を育てる人は、子供のいのちを守るという尊いことをされているので当然素晴らしいのですが、そもそも子供がいない人も素晴らしい“いのち”です。

f:id:bousouwakoudo:20200716230920p:plain

「多様も恋愛も、恋愛しない人生も、全て尊重しあうコミュニティ」(関西Aceコミュニティ)

 繰り返しますが、いのちには生産性では測れない「絶対の価値」があります。
 異性愛者でも、子供を育てない、持たない選択をするカップルはいますよね?
 逆に、アセクシャルカップルが養子を持つことも、あり得ます。
 「異性愛者(ヘテロセクシャル)」と「無性愛者(アセクシャル)」と言うと、全く異質の存在のように見えますが、私たちは同じ存在なのです。
 “生産性”なる言葉で、いのちに線引きをすることは、できません。

 なお、最後にちょっと蛇足になりますが、冒頭で紹介した杉田水脈先生はLGBT当事者に対して「本当にごめんなさいね」と謝罪しています。

 

 自分の間違いを認めて謝罪するのは、勇気のあることだと思います。私個人は自民党に所属している議員は応援したくありませんし、杉田水脈先生は自民党を離党した方がその素晴らしさを活かせる方だと思っていますが、明確に謝罪の言葉を述べられた今回の勇気には、感動しました。
 他の政治家の方にも見習っていただきたいものです。